• 平田茂邦

「いい会社」と「ファン」がより良い日本をつくる

今回、インタビューを受けていただいた平田茂邦さんは、学生時代に「就職活動を2日間で辞めた」というエピソードの持ち主。「他の人と同じことには興味がなかった」「成功している人は皆、他の人と違うことをしている」と語る平田さんは、海外で生活・仕事を経験した後、日本に戻りご自身で会社を立ち上げます。「もっと日本をいい国にしたい」という思いをもって事業を始めた頃のお話から、今、会社を経営する中で大切にしていること、様々な“いい会社”の経営者とともに仕事をする中で感じている思いまで、お伺いしました。
インタビュー実施日:2018年2月26日(らしくインタビュアー渡辺)

目次

■海外から帰国して、日暮里のワンルームマンションで会社を立ち上げた

――現在のお立場と、どんなお仕事をなさっているか教えてください。

役職は代表取締役ですので、基本的にはマネジメントが仕事です。社員のモチベーションを上げ、社員が働きやすい環境を作り、戦略を考え、経営理念を突き詰め、マーケティングを考え、商品を考え……。マネジメントと呼ばれるもの全般をやっています。

――今、メンバーは何人くらいですか?

正社員で20名ほどおります。

――日々、20名の方々と顔を合わせてコミュニケーションをとりながら、お仕事をされていらっしゃるんですね。この仕事を始めたのはいつ頃からですか?

2003年ですので、15年近く前ですね。日暮里のワンルームマンションで会社を立ち上げました。

――お一人で始められたのですか?

そうです。私は大学を出て海外に一年半ほど行っていたので、帰国してから一人で会社を作りました。

――卒業前に、起業することを前提にいろいろと動いていらっしゃったんですか?

はい。大学を出て海外に行く頃には、帰ってきて会社を作ろうと思っていました。

――海外に行こうと思われたきっかけは?

自分の視野を広くすることが重要だと考えていたからです。日本のことだけしか知らないで起業するよりも、世界を広くしてからの方が、事業モデルなどにもメリットが作れるんじゃないかなと思っていました。

■カナダでは「起業」が大卒後の選択肢として普通にあることに驚いた

――海外はどちらの国ですか? そこを選んだ理由は?

カナダにいたのですが、選んだ理由の一つは英語圏であることでした。ビジネスの世界では英語が公用語だと思っていますので、英語が学べること。もう一つは、アメリカに比べると比較的安全な場所なので、自由に活動できることです。インターンで色々な仕事を経験できる環境がカナダにはありました。その二点から、カナダのバンクーバーを選びました。

――視野を広げる、英語が学べる、インターンとして働く、という目的でいらした。

何カ所かインターンさせていただいたんですが、カナダ人はもちろん、南米の人やヨーロッパの人と一緒に働く経験ができたので、価値観を広げるという意味では非常に良かったのではないかと思いました。

――印象深い出来事はありましたか?

バンクーバーの隣にバーナビーという町があるんですが、Burnaby Board of Trade(※日本の商工会議所に相当する組織)でインターンしていた時のことです。そこでは商業登記などを行っていたのですが、当時23歳くらいだった私とあまり変わらない年齢の若い人が会社の登記にやって来るのを見ていました。やっぱり起業という文化が根付いているんだなと、インパクトを受けましたね。

――当時の日本ではちょっとずつ IT企業の起業が増えていた時期かと思いますが、カナダではレベル違いに多い、当たり前のことであると感じられたのでしょうか?

そうですね。学生の方々にとって「起業」が大卒後の選択肢として普通にあるんだなと思いました。日本は新卒の一括採用があるので、就職活動が第一の選択肢ですからね。

――カナダでの暮らしはいかがでしたか? 文化の違いや考え方の違いに戸惑いや抵抗はありませんでしたか?

1年2ヶ月くらい過ごしましたが、基本は「カナダ人みたいに生きよう」と思っていたんです。日本人と全然喋らず、カナダの人たちと一緒に、カナダの文化をいかに自分の中で体験できるかということを課題に考えていました。自分が日本人として違うと思ったり、今までにない出来事があったりしても、「これがカナダの考え方だから」と理解して、あまり抵抗はなかったと思います。

――何か大きく得られたものはありましたか?

文化も宗教観も全然違うので、まずは他の人の価値観を否定しないということに関しては非常に勉強になったなと思います。日本では、人と違うことをすると「変わっているね」という話になりますよね。例えば、「新卒で就職活動しない」と言ったり、「信仰している宗教がある」と言ったりしたら、色眼鏡で見られるかもしれない。カナダでは、あくまでもそれは選択肢のひとつなので、他の人がどういう考え方に基づいていようと「それはそれだよね」と考える文化がありました。それを強く感じましたね。

■不安はあった。でも、「社会をこうしたい、日本がこうなるといいな」という思いで乗り切れた

――平田さんご自身、新卒で就職活動せず、海外でのインターンを経て起業、というルートをたどったことに関しては、どのように捉えていたのでしょうか。

父が会社を経営していたこともあって、起業に対しても、他の方と違う職業であることに対しても、抵抗がなかったように思いますね。

――就職活動しなかったことで、周りから何か言われませんでしたか?

起業準備中は「真面目に働いた方がいい」と言われることがよくありました。成功をどう定義するかにもよりますが、周りと同じ価値観で生きても、それなりの成功はするのかもしれません。でも、新しいものを作ったり、みんなが考えられないものを作ったりすることは、他人と同じやり方ではできないと思うんです。
そういう意味では、他の人と違うのはいいことで、決して悪いことではないと思っていました。周りから何か言われても、新しいことをやりたいと思うのはいいことなんじゃないかなと。

――くじけそうになったことや、迷ったことはありましたか?

やっぱりお金の面で不安はありました。特に、起業して一年目は大した収入もなかったので「生活大丈夫かな」と。でも、それよりも自分がやりたいこと、「社会をこうしたい、日本がこうなるといいな」という思いの方が強かったので、乗り切れたんじゃないかなと思っています。

■日本社会も日本企業も挑戦できない。それを変えるような支援をしたくてIR事業を選んだ

――IR※を軸とした事業展開のきっかけは、どういった点だったのでしょうか。
(※Investor Relations:投資家向けの広報活動全般を指す。企業が株主や投資家に対して、投資の判断に必要な情報を提供すること)

考えていたのは「日本の役に立つことをやろう」ということでした。基軸にあったのは、日本の社会をどう変えていくか。参入タイミングや事業価値などを考慮した上で、IRを思いつきました。

――日本の役に立つ、社会を変えていくための事業としてIR事業を起こした、ということですね。

アメリカの個人金融資産がおよそ8000兆円であるのに対して、日本はおよそ1600~1700兆円と、約5倍の差があるんです。アメリカではその内の約45%にあたる3000~4000兆円が株や投信に回っています。マーケットにリスクマネーとしてそれだけの個人のお金が回っているわけです。一方、日本では全体の約15%程度の300~400兆円にとどまっています。つまり、株や投信ではなく、預金と保険にお金を回しているため、日本の個人金融資産はほとんどリスクを取らないものになっているんですよね。

――日本とアメリカの間に、そんなに大きな差があるんですか。

起業当時、さまざまなITベンチャーが台頭してきていた中、GoogleやFacebookなどはリスクテイクができる環境にあって、お金もどんどん集まっていつでも勝負がかけられる状況でした。一方、「そういうお金は出せません」というのが日本です。

グローバルな戦いをしようとしても、私たちはGoogleやFacebookなど、海外のサービスを当たり前に使ってしまっている。海外、とりわけアメリカの方が圧倒的に有利な環境であるという現状を変えていかないと、日本社会も日本企業も挑戦できないと思ったんです。そういった部分を変えるような支援をしたくて、IR事業を選びました。

――アメリカでは投資や株が当たり前のことなのに、日本では「リスクのある危険なもの」というイメージがあるのはなぜなのでしょうか。

投資で成功してきた文化や歴史があることが一番大きいと思います。マイクロソフト然り、アップル然り、ああやって大きな投資をされて成功してきた企業がどんどん出てきています。昔は日本にも、ホンダやソニーなど世界に通用するベンチャー企業があったと思うんですが、この50年くらいは世界で広く名前を知られている日本企業は生まれていません。現在のアメリカと日本の環境を比べると、挑戦して成功した事例・歴史・背景が日本にはなくなっているから、投資に対してマイナスイメージがあるのではないか、とは思いますね。

――私がアメリカにいた20年ほど前から、日本のビッグネーム企業は変わっていないと思いますが、どう思われますか?

時価総額ランキングを見ると、アメリカでランキング上位を占めるのはほとんどが新しい企業ですが、日本企業はNTTやトヨタを始めとして、あまりメンツが変わっていませんね。日本は、個人も法人も、挑戦しようという意識が昔からあまり変わっていないんじゃないかなと思いますね。

■「これから日本でどんな事業が伸びるか」を判断基準にして起業した

――平田さんは、もともと株や投資という分野に明るかったのですか?

詳しかったわけでもないんですよ。私は理系で、工学部経営工学科出身ですし。どちらかと言うと、これから日本でどんな事業が伸びるかということを判断基準にして起業しました。

――これから伸びるのはIR事業だと予測したわけですね。

2003年当時、小泉首相の時代に日経平均が7000円台をつけていた頃、Yahoo! BBなどが登場してきて、インターネットでIRすべきだという意見がずいぶん聞かれるようになってきました。日本はかつてインサイダー天国と言われていて、プロの投資家には情報開示してもウェブ上では公開しないのが当たり前だったんです。起業当時の営業先で「競合に見られるから、このIR情報は出しません」と言われたこともあります。一般の投資家に対する“情報割愛”が結構あった。それで投資しろと言われてもね……。

それが、だんだんインターネットを通して個⼈の投資家や主に外国⼈投資家の⼈たちに情報開⽰していったのが、ここ15年くらいの歴史だったと捉えています。その波にある程度は乗れたので、マジカルポケットという会社を15年間経営してこられたんじゃないかなと思っています。

――この事業でいけそうだ、メンバーも増やしていこうと思ったのは何年目くらいの時でしたか?

かなり仕事が増えて、順調に業績が伸びていった2年⽬の頃ですね。大企業のお客様のニーズを掴んだ実感がありました。その後、ライブドア事件やリーマンショックが起きて、アナリストがいなくなったり、IR の予算がどんどん削られたりしたので、そこで色々と考え方を変えなきゃいけない時期もありましたが、比較的早い段階からIRの需要は掴めていた感じがします。

■投資って就職活動と同じで、将来を見て「いい会社」を探すもの

――世の中の流れを掴もうとする時には、情報収集したり仮説を立てたりすると思うのですが、どういった切り口や感性で臨むのでしょうか。

まず、人口動態などの統計的な切り口があります。ご存知の通り、日本の人口はどんどん減って高齢化が進んでいきます。すると必然的に、今まで「勤務先にお金を預けておけば、辞める時に手に入っていた退職金」も、若いうちから自分で運用を考えておかなきゃいけなくなる。企業がこれまで持ち合いしていた株式を、景気が悪くなってどんどん放出していくので、それを個人の方々が買っていく。そういった統計的データが、比較的大きな流れとして、考え方のベースになっていると思います。

――現在のように、IR情報がウェブ上に公開されて誰もが閲覧できるようになることは、起業した頃に予測できていましたか?

そうですね。それは予測していました。学生の時からインターネットを触っていたので、紙よりはインターネットでの開示が進むとは思っていました。
ただ、投資そのものは想定以上に遅れていると思います。理由としては、日本では高齢の個人投資家に資産が集まっているので、若い人はそれほど投資のための原資(お金)を持っていないことが挙げられます。まだ若い人たちが投資するような環境にはなっていない。そこは想定とずいぶん違っていますね。

――あと何年くらいで、若い人の投資、運用、お金の使い方が変わると思いますか?

世代交代や相続が進むことを考えると、20年後くらいじゃないですかね。それくらいはかかるんじゃないかな。

――日本をよくしたいというビジョンについてですが、具体的にはどんなことを思い描いていますか?

現在、証券⼝座を持っている個⼈投資家は約1800万⼈、株式ののべ個人株主数は約5,000万人です。⼀⼈あたり平均3銘柄くらいですね。この証券⼝座の保有人数が、⽇本の⼈⼝の半分に相当する5000万人くらいになることが重要だと思っています。

我々は個人投資家向けのイベントなどを開催しているんですが、そういう場を通して、投資のリスクと合わせ、それ以上にリターンがあることをしっかり理解していただきたいですね。

――そうなった時に、日本はどう変わると思いますか?

いろんな変化がある中でも、企業に対する見方が結構変わるんじゃないかなと思います。多少のリスクテイクを認め、近視的な見方はなくなるかもしれません。投資って就職活動と同じで、将来を見て「いい会社」を探すものです。5年後、10年後にその会社がどうなっていくか、それを考えるきっかけにはなると思いますね。投資が若い人たちに進めば進むほど、将来を考える機会が増えるのではないでしょうか。

■「誰と仕事をするか」というのが重要

――学生時代、就職活動はされましたか?

就職活動は、学校で開催された説明会に参加した2日間だけしました。そこで企業の方々のお話を聞いて、就職活動はやめました。申し訳ないけど、たまたまその方々が魅力的ではなかったのかもしれないですね、私にとっては。

――平田さんは理路整然としていてロジカルな方という印象です。

理系ということもあって、多少ロジカルな面はあると思います。感情的になることは年々減ってきていますし。とは言え、起業に大事なのは情熱や思いですから、直感的な部分も重要でしょうね。自分を分析すると、比較的ロジカルサイドの経営者かなとは思います。

――小さい頃からそうでしたか? 経営者だったお父様からの影響はありますか?

小学生の頃、家族で店に行くと、座席を数えて、売上や回転数についての話を父から聞いていました。「この座席数だと、売上はこれくらいだよね」みたいな話で、それが楽しかったですね。

実家で両親が商売をしていたので、銀行さんが来ると母が対応していたり、経理の手伝いをしていたりしたので、数字については小さい頃から教えてもらってきたんじゃないかなと思います。両親が仕事する姿を見るのは日常茶飯時でしたし、そうやって育っていますので、家と商売はかなり密接していましたね。

――働く社会人はどう映っていましたか? 面白そうなことしているな、とか?

子どもの頃はバブルで景気が良かったので、みんな自由にやっているなという感じがありましたね。今みたいに、コンプライアンスやルールが厳しかったわけではないので、「いい加減な仕事の仕方でも、商売というのは成り立つんだな」と(笑)。

今のビジネスは、当たり前のように相見積もりを取って、どれが安いかと数値を重視するところが多いですが、当時は誰に発注するかが重要でした。その人との信頼関係があればこそ、その人にお願いすればうまくいくという感じで、仕事は信頼関係で成り立つんだなと思っていました。特に当時は、その人を信じてついていくことや、「誰が言ったか」「誰とやるか」が非常に重要だった気がしています。

――それを子どもながらに感じていらっしゃった。

そうですね。家庭と会社が切り分けられていなかったので、人間関係でビジネスができている光景は小さい頃から見てきたと思います。

今はビジネスにおいては、「誰がやるか」より「いくらでやるか」という基準が増えてきたと思います。でも、本来は「誰とやるか」の方が重要です。「誰が言ったか」より「何を言ったか」の方に重きを置く人もいるかもしれませんが、我々としては「誰が言ったか」の方が大切なんです。

どんなことを仕事にして、いくら儲かるかも大事ですが、「誰と仕事をするか」というのが私は重要だと思っているんですよね。

■仲間を選ぶポイントは、「ずっと一緒に働きたい」と思えるかどうか

――一緒に働くメンバーには、どんな人を求めていますか?

とにかく長期で働いてもらうことを意識しています。新卒・中途共に、ずっと一緒に働けたらなと思っているんです。ですから、まずはその人に継続性があるかどうか。新卒の方ならば、小さい頃からずっと続けているものがある、などといった価値観は非常に重要視しています。

何かを継続することは、ずっと同じことだけを繰り返してきたこととは違うと思っています。続ける中で、成長してきたはずです。スポーツでも音楽でも、10年続けていたら必然的に上手くなったり、違う方法を試してみたりしているでしょう。長続きしない人は、何をやっても初心者レベルのことしかできません。長く継続できることは、成長し続けられることだと思っているので、我々としてはその価値観を特に重視して、どうやってキャリアアップしてきたか、どうレベルを上げてきたか、面接ではそういう点を聞くようにしています。

――ちなみに、ご自身で長くやってらっしゃることは何ですか?

今となっては、起業家として15年間会社をやってきたこと、それが一番長いかなと思います。学生の時からパソコンを触るのが好きだったり、小さい頃から大学時代までサッカーを続けていたり、読書したり。そういうことも長くやってきましたね。

――子どもの頃からサッカーも読書も好きだった。

そうですね。読書は歩きながらでも本を読んでしまうくらい(笑)。ビジネスの本ももちろんですが、高校生の頃から推理小説を読むのがすごく好きだったので、ずっと続いていますね。

――恋愛小説とか読みます?

勧められたこともありますが、あまり……(笑)。ただ、恋愛小説が必要かどうかは別ですが、人間の心理は経営者として勉強していかなきゃいけないと思いますね。心理というよりは、誠実さや考え方、信念など、人間性という言葉で表されるようなものは磨いていく必要があるように感じます。

――サッカーは、どのポジションを?

学生時代はみんなと同じことはやりたくないなと思っていて、サッカーのポジションもキーパーだったんです(笑)。みんなと違うことをやりたい、ボールを蹴るより手で掴めることに興味があったのかもしれません。比較的冷めていた学生時代でした。

■成功している人は、みんなと違うことをやっている

――周りと違うことをしたいという気持ちは小さい頃からあったのですね。

それはあったと思います。周りと同じ、というのはちょっと嫌でしたね。同様に、就職活動にもあまり価値を感じませんでした。小さい頃から父が経営者をやっていたので、人と違うことが重要だと思っていました。

――周りから色々言われませんでしたか?

そうですね。日暮里のワンルームマンションで会社を始めた時は「ちゃんと働いた方がいいよ」とか「経営者に向いていない」と言われたこともあります。既存の価値観で色々と言われたことに対しては、悔しさをバネにして頑張ったところもいっぱいある。でも、経済的に成功している人っていうのは、みんなと違うことをやっていると思うので、その方がうまくいくんじゃないかなと。

――リスクを指摘される中で、思いを貫くのってすごく大変なことだなと思います。

みんなと同じことをやるのがノンリスクだということには、あまり納得はできていません。それが間違っていたらみんな沈みます。そもそも、人と違うことをやるのがリスクヘッジです。投資でもそうですが、同じような株価の上がり方をしているものへの投資はリスクが最大になる。本来のリスクヘッジとは、片方儲かったら片方損するというようなバランスを取ることだと思うのですが、たぶん日本では違う考えですよね。

――みんなと同じ方向に行っていれば、「まあなんとかなるだろう」という心理が生まれやすい国であり、文化ですよね。

そうですね。そう思います。

■「こういう社会にしたい」「これがやりたい」と仕事をしているから、ストレスは感じない

――プライベートな時間でも割と仕事のことを考えている?

そうですね。個人的にはオンオフはあまりないんですが、時代も時代なので、前ほど会社にずっといるようなことはだいぶなくなりました。以前はそれが楽しかったんですが、最近は働き方改革的の流れで、残業時間をどんどん減らし、有休消化を促すなどの取り組みを社内でかなり進めています。

プライベートでやっているのは、勉強が多いですね。趣味が勉強だと言うとちょっと偉そうですけど、いいんじゃないかなと。財務の本を読むのは楽しいですし、講演を聞きに行って新しい勉強をすることも好きですし。勉強することが楽しいなとは思いますね。

――サッカーはもうやってらっしゃらないんですか?

はい。スポーツなら、ゴルフはちょっとやります。昨日もお客様と行ったんですが、基本的には仕事で月一回くらい。ここ5~6年は個⼈的にも結構練習していたんですが、あまり上⼿くなりすぎると仕事で使いにくくなるので、適度なくらいがいいかなと思って、ほどほどにしています。

――息をつく場所や時間はありますか?

基本的には一人が好きなので、ぷらぷらしたり車に乗ったりしていることが楽しいです。よく「会社を経営していると孤独でしょう、ストレス溜まるでしょう」と言われるんですが、そういう実感があまりなくて。社員はみんな一生懸命頑張ってくれているので、あまり孤独感はないですね。ストレスがあまりないのも、財務体質が悪いでわけでもなく、お金を借りているわけでもないからですかね。どちらかと言うと、「こういう社会にしたい」「これがやりたい」と、自分たち自身でプレッシャーをかけているくらいですから、あまりストレス解消する必要性を感じていないですね。

――「社長や経営層は孤独なものだろう」という思い込みがありますよね。

半分遊びで、半分仕事みたいな部分がたくさんあるんですよ。例えば、クライアントの商品を買ってみるとか、お店に行ってみるとか。そういう意味では、仕事がストレスになるかとか、息抜きが必要かと聞かれると……。昨日もお客様と楽しくゴルフしていましたのでね(笑)。そんなに息を抜く必要性というのは感じていないです。

■「いい会社」というのが、シンプルだけど重要なキーワード

――メンバーはどんな方が多いですか?

採用条件にもありますが、結局、「この人のことが好きで、長く一緒に働きたい」と思う人ばかりです。社長として意識しているのは、その人達にとって一緒に働いていて楽しいと思ってもらえるかどうか。昔はできていなかったんですが、今は「この人と苦楽を共にして、お互い成長していけるか」ということなどを気にして、仲間の基準にしています。

――投資やIRというと、数字に強い方が多いのかなと思うのですが、いかがですか?

そんなことはないですよ。いわゆる文系の個人投資家さん向けのイベントを企画している社員もいるので、彼らはイベントをどう盛り上げるかといった仕事をしています。
プロの機関投資家に比べると、財務情報ではないところに我々のポイントがあると思っているんですね。特に最近、ESG(環境、社会、ガバナンス)や非財務情報の重要性がよく聞かれるようになりました。財務情報だけではなく、⾒えない形、環境・社会・ガバナンスといったところがかなり注目されてきています。現在のIRは非財務情報に重きを置かれているような気がします。

――文系の学生でも、仕事に興味があれば十分に活躍できる。

そうですね。先日、私たちは大阪でイベントをやっていたのですが、「いい会社」というのが重要なキーワードだと思ったんですね。鎌倉投信さんのご支援で、亀田製菓の会長さんやツムラの社長さんに来ていただきました。社会貢献や社会を良くするような活動、会社によっては障害者雇用の推進など、事業自体がいかに社会貢献していくか判断することが重要です。本来は、社会貢献したことが結果として利益になるのだと思っていますので、我々は「いい会社」をいかに自分たちなりに理解してイベントを開けるか、IRができるか、というのがポイントだと思っています。

――IRを「いい会社」と言い換えるとすごくしっくりくる感じがします。

キーワードは「いい会社」と「投資家さんもファン株主」。弊社の顧問にカゴメの元IRの執行役員がいるんですが、経験をもとに、いかに株主さんをファンにするかということに取り組んでもらっています。投機ではなく投資していただくファン株主を会社が作っていって、長期的に一緒に成長できる環境を作るのが重要だと思っています。「いい会社」「ファン株主」というのが、我々としては大変重要なキーワードだと思っています。

――今更ですが、「マジカルポケット」という社名の由来を教えていただけますか。

ベンチャー企業である以上、世の中にないものを作っていかなきゃいけないと思っていたんですね。「魔法のポケットのように、みんなが感動してくれるようなイベントやビジネスをやりたい」と、私が名付けました。世の中にあるものの焼き増しや効率化も重要ですが、できれば世界を変えるような、みんなが見たことのないイベント、他と全然違う価値観を与えられるようなことをしていきたいと考えていました。

■能力や役割を踏まえて、それをどう生かせばもっといい社会が作れるかを考えている

――今後、どんなキャリアや、人生を歩んでいきたいですか?

私はいつ引退するのかわかりませんが、正直に言うと社長としてのこだわりはあまりないんです。社会や会社がどうなるかということが重要で、自分が社長でいなければいけないとはあまり思っていないんですね。極端な言い方をすると、自分が社長じゃなくても上手くやってくれる人、社会を良くしてくれる人、IRを良くしてくれる人がいれば、その人がやればいいかなと思っています。私は「この仕事をしたい」というよりは「社会がこうなる方がいい、会社がこうなる方がいい」という思いの方が強いので、この仕事でなければという感じではないんですね。

自分自身の能力や役割を踏まえて、それをどのように生かせばもっといい社会が作れるかという観点から仕事のことを考えています。会社というのは、社長自身の能力によって営業色が強かったり、財務色が強かったり、さまざまですからね。私の価値観では、どんな仕事をしていても、みんなが頑張ってくれて社会が良くなっていくんだったらいいかな、と思っています。これからこんなキャリアを積みたいとか、そういったことはあまり考えていないですね。

――あの車に乗りたい、あそこに住みたい、こんな生活をしたいなど、欲はありますか?

自分の財産で一番大きいのは、会社です。人並み以上の生活をすることよりも、会社がうまくいけばいいと思っています。具体的に言うと、例えば「いい車が欲しい」と思う時もありますが、それって長続きしないんですよ。買わなくても、なんとなく欲しいと思わなくなってしまうことも多い。そういう意味では、「これから会社がどう変わっていくか」ということの方がよっぽど面白いですね。

■会社の利益から、まず社員のボーナスが決まり、次にどれだけ内部留保するか考え、最後に社長の給料が決まる

――お話を伺っていると、非常に飄々としている印象を受けます。

そういった意味では、自分が「いい社長」であるとは全然思っていないのですが、やっぱり第一に社会のことを考えています。だからこそ必然的にお金が集まってくるんじゃないかなという感じですかね。

例えば、弊社は15期のうち一回だけリーマンショックの時に赤字になったんですが、その時は私の給料を5万円まで下げて、数年かけて徐々に戻していきました。社員より、まず経営者の給料を下げるべきだと思っているからです。そういう意味では、自分のお金をたくさん欲しいという気持ちはあまりなくて。

会社の利益についても、まず社員のボーナスが決まり、次にどれだけ内部留保するか考え、最後に私の給料が決定されます。儲かれば私の給料が多くなるかもしれませんが、そこにプライオリティはないですね。それがなくなったら働かなくなるわけではないし、そうでない時も長く経験しているので、そこに重きは置いていません。

一方、社員の生活となるとリスクとリターンのバランスが全然違うので、社員の成長性と安全性を基軸に福利厚生のプランを考えています。

成長を基軸としたプランには、本の購入制度と研修制度が挙げられます。 本については、「本を買うため」にお金を払うより、「本を買った」人にお金を払った方がいいと思ったんですよ。本質的に「お金をもらったから勉強します」という人を応援してもしょうがないので。読んだ本は会社が買い取ります、勉強している人にはお金を出します、という感じなんですね。買い取った本は会社に置いておくので、いずれは後輩たちも読めます。「頑張っている人を応援します」という姿勢は、会社のメッセージアウトにもなります。

研修制度については、外部研修が受けられるほか、新卒者対象の研修ではリクルートの元常務やジョンソン&ジョンソンの元副社⻑、スカパー!の元社⻑など、そうそうたる面々に登壇いただいています。研修によって能力を伸ばすことにはお金をかけています。

安全基軸のプランとしては、昨年から、3年以上勤めた社員は生命保険に入れるような制度を導入しました。働き方についても、どうやって残業を減らして予算を作るかといったことを考えているほうが楽しいですね。

■みんな仲間。社長というのはあくまで役割の一つ

――周りの社員は、社長のことをどう見ていらっしゃるんでしょう?

みんな、「社長」として色々と気を遣ってくれるんですよ。ただ、私自身は、社長だからどうだこうだ、というルールで動いていません。

例えば、弊社は毎週金曜日の18時から一斉に社内の掃除をしているんですが、私が掃除機をかけていたら、「社長、掃除機なんかかけないで下さい!」という人も中にはいて(笑)。そういう気の遣い方をしてくれるんですね。私からすると自分もみんなと同じなので、重役出勤することもないですし、8時50分からの朝礼に遅れることもめったにない。それに対して「もうちょっと社長らしく……」という視点でフォローや気遣いをしてくれていると思うのですが、私がそういう基軸で動いていないのでね。

――「社長だから」ではなく、他のみんなと同じなんですね。

みんな仲間ですからね。社長というのはあくまで役割の一つなんです。意思決定や決裁、戦略を考えるなど、他の社員と違う役割はありますが、人間的に偉いとかそういう問題ではない。若い時は、「社長は偉いんだ」という考えを持っていたことありましたが、今は別に社長だからどうこうというわけでもなく、「こう扱ってほしい」とも思いませんね。基本的にはみんなと同じ目線で、社会をよくする仕事をしていけたらいいなとは思っています。

――その中でも、自分がこういうキャラクターとしてみんなに認めてもらっていたら嬉しいなという部分はありますか?

「いい人」かどうかという目線よりは、ビジョナリーな感じで見て欲しいなと思っています。つまり私自身が会社のビジョンであり、私がやるべきと思っていることが、会社の進む方向だという理解をしていただいていればいいかなと。私は、社会を良くするという方針のもとで、いい会社を増やし、ファン株主を作っていくためのプランを考え続けている存在だと思われていたいですね。

■懐の深い先輩方を見て、考え方や価値観の相違も受け止められるようになってきた

――コンプレックスはありますか?

コンプレックスはいっぱいあります。この仕事をやっていると、上場企業の社長に会う機会が多いんですが、本当に優秀だなと思う人がいっぱいいるんですよ。頭のキレもびっくりするほど違います。それなのに、とぼけて穏やかなオーラが出ている(笑)。

先日お会いした亀田製菓の会長は、頭はすごく切れる方なのに、すごく穏やかなんですよ。こういうオーラを出せるのは、いろんな経験の中から、自分がどういう存在であるべきかということを突き詰めているからだと思うんですね。そういう方々を見ていると、「いやあ、こういう雰囲気を出しながら社長としての判断をすることは、自分にはできないな」と、よく思いますね。

また、投資信託会社の鎌倉投信でファンドマネージャーを務めている新井さんという方がいるのですが、彼は「いい会社のために働く」ことを徹底しています。いろいろな企業の会長や社長たちに慕われている彼のストイックな姿を見ると、自分はまだまだ甘いなあと思います。

――そうなりたいと思いますか?

思います、思います。イベントのセミナーでいろんな会社の社長の話を聞きましたが、もっと一生懸命、会社のことや社会のことを考えられる存在になれたら、本当に社会をよくできるだろうなと思っています。

――憧れて目指しているところがある。

そうですね、すごいと思います。自分はこのレベルには到底達していないな、と思いますよね(笑)。

――苦手なことは?

あまり“好きくない人”とは上手くやれないかもしれない(笑)。お金の話を中心に持ってきちゃう人たちと、うまく擦り合わせるほどのマイルドさはないかもしれないですね(笑)。

――先ほど「感情的になることは減ってきている」というお話がありましたが、かつては違ったのでしょうか?

全然受け入れられなかったですね。起業した時に、営業の目標数字などがなくても事業が始められたので、「まずは数字です」みたいな話になる営業マンの人たちの文化や考え方は、全然受け入れられませんでした。そのあたりの重要性に関しては、“守備範囲”が狭かったと思います。

今では「そういう考え方もあるよね」と。細かいことかもしれないですけど、会社で忘年会をやっても来る人と来ない人がいますよね。それは単に価値観の違いで、それを重要だと思っている人と、そうでない人がいるだけのこと。そういうことに対して受け入れられるようにはなってきたかなとは思います(笑)。

――本音では、みんなに参加してほしいですか?

それはそうですね。楽しくストレスなく、みんなでやれるっていうのはありがたいことですから。でも、ダイバーシティ(多様性)が求められている今、違う考え方は受け入れて自分の成長に繋げなきゃいけないと思っています。理念とはまた別に、アプローチの方法は人によって違っていいんじゃないかなと最近思えるようになりました。

――いろんな方と接する中で、考え方も広がっていきますよね。

そうですね。先輩方に懐の深い人がいっぱいいるので、彼らを見てそう思うようになりました。

■自分が社会においてどんな爪痕を残したいのか、どう生きていきたいのか考えてもらいたい

――学生や、この記事を読むメンバーに伝えたいことはありますか。

まず、自分が社会においてどんな爪痕を残したいのか、どう生きていきたいのか考えてもらいたいと思いますね。もちろん自分の利益も大事ですが、社会において自分がどんな価値になりたいのか、一生懸命考えてもらいたい。せっかく自分の人生があるのだから、みんなと同じ、名前を覚えてもらう価値もないような人生を送ってほしくないなと思います。

次に、生涯学習して成長し続けること。私が師と仰ぐ方の一人は「未来は過去の延長線上にない」と言っています。バブル経済の頃は、過去の延長線上に未来がありましたが、今は違う。昔なら先輩について行けば上手くいっていたことが、今も同じ方法で成功するとは限らない。そうである以上、新しいことを勉強して新たな知恵を取り入れていくこと、つまり生涯学習が私たちには重要なのではないかと思っています。

経営者としては、お金と時間と人について、また、できる限りその人自身の人生を良くする能力を伸ばしていくための頑張りはしたいと思っています。

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「らしく」は、「自分らしく働く、を応援しよう」から命名した、新しいサービスです。「らしく」は、就活生の持つ”自分らしさ”と、企業で働く社員の”自分らしさ”をマッチングさせ、就活生の皆さまに、満足度の高い就職活動を実現していただくことを目指しています。

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