- 大島篤・田所沙弓
プラスチックを味方にしている人は強い!
今回は、同じ会社で働く大島篤さん、田所沙弓さんの2名にインタビューをしました(写真左が田所さん、右が大島さん)。プラスチックという素材に携わり、設計を担当する大島さんと、デザインを担当する田所さん。互いに信頼関係があるからこそ、難問もクリアし、仕事を実現していくことができているのだと、お2人の話から垣間見ることができました。
“ものづくり”の現場で働く社員のこと、大島さんと田所さんのそれぞれの経歴と過去に抱いてきた想い、オフィスに並ぶこれまでの作品たちについて、語っていただきました。
インタビューをした後、周りを見渡すと、本当に数多くのプラスチック商品・アイテムに囲まれているな、と改めて気づかされました。皆さんも是非、周囲を見渡してみてください。「あ、これもプラスチックだ!」と発見があるはずです。
インタビュー実施日:2017年10月31日(らしくインタビュアー渡辺)
目次
■大島「私が設計を担当して」、田所「私がデザインを担当しています」
――本日はお2人に同時にインタビューをさせていただきます。まずはそれぞれに簡単な自己紹介をお願いします。今のお仕事とお立場について、お伺いしてもよろしいですか。
大島
当社はプラスチックの商品、アイテムを作る会社なのですが、設計を担当しています。
――プラスチックの製造を依頼するお客さまというのは、企業のお客さまが多いのですか?
大島
いろいろですね。個人のお客さまもいますし、企業のお客さまもいます。
――こういう物を作ってほしいとオファーがある時には、「こういうものをお願いします」と具体的な詳細を送ってくださるのですか?
大島
そういう場合もありますし、こんな言い方も失礼ですけど本当に「素人」で何もわかってない、作れないものを作ってくれと言ってくる人も多いですね。
――設計というお立場ではそれを具体的に……、紙で設計するんですか?
大島
いえ、パソコンで主にCADソフトで設計します。
――なるほど。「こういうものでよろしいですか?」と話を詰めていって、OKが出て、いよいよそれで製作・製造に入る、と。
大島
そうですね。まずは試作のステップがありますけどね。一個目をまず作って、OKであれば量産していきます。
――その設計の部分を製作なさるんですね。ありがとうございます。田所さんはいかがでしょうか?
田所
私の本業はプロダクトデザインなんですけど、それ以外にも社内のグラフィックデザインですとか、ウェブデザインですとか、採用の広報ですとか、仕事はいろいろやっています。社内の新しい仕事をやらせてもらっている感じです。
――結構いろんなことをやってらっしゃるんですね。
田所
そうですね。比較的、幅広いです。
――お2人は同じチームで働いているのですか?
大島
まあ近いですよね。僕が設計する周りの段階で、デザインを田所さんがやってもらうことが多いですね。
まずは僕が、大きさ、形、寸法など、基本的な情報を固めて、それを基に設計をして、設計したものを田所に渡して素敵に見えるデザインにしてもらいます。そこからもう一度デザインが僕のところに戻ってきて、今度はそのデザインをちゃんと製造可能なかたちにちょっとずつ修正して試作に移る。そういう流れですね。
――そのやりとりは、どれくらいの時間を費やすものですか?
大島
うちは小さい会社で小回りをきかせることが大切なので、大体一週間。
――そんなに早いんですね! では、その一週間でデザインを一回見て、また直して、現実的に作れるものに設計を変えていく、と。
大島
そうですね。一週間というわけにいかない場合もありますが、長くかかったとしても、ひと月はかからないですね。
――今「小回りが」とおっしゃったんですけど、やっぱりそれが御社の強みっていうことなのでしょうか?
大島
僕はそれがそうだと思っています。
田所
そうですね、デザイン会社と設計事務所とを分けずに一社でできるので、小回りがききます。日数とか手間の差が出てくるんじゃないかな、と思います。
――他社さんだと、設計とデザインとが別の会社で分かれていると、調整や連絡だけでも相当時間がかかるもんですよね。
大島
そうなんです。しかも社外のデザイナーの中には、メカのことをあまりわからずにデザインする人が多いんですよ。なので、現実では製作が困難な案を送ってくることが結構あるんです。当社でも、お客さんが自分でデザイナーにデザインを発注して、そのデザインをケース化してくれって話が来ることも多いんですけど、そういう時は社内でデザインする時より苦労しますね。
――できること、できないことを調整して伺いながら現実的にしていかなくてはならないんですね。
■時代の変化とともに、仕事や肩書きを柔軟に変化してきた
――次は、お二方の経歴を伺ってもいいですか? 大島さんは、もともとそういった設計をやってらっしゃったんですか?
大島
もともと父がコンパクトカメラの設計事務所をやっていたんです。そこに僕も入って基本的にはデザインと試作の仕事をしていました。かなり昔の話ですけど、初めてコンピューターというものがオフィスに入ってくる時代だったんですね。会社も「これからはコンピューターの時代だ」って話が出て、それを研究、勉強するために、コンピューターを導入して、僕がいろいろ研究する立場になったんです。そこからちょっと話が飛ぶんですけど、コンピューターのことが大分わかってきて、パソコン雑誌に僕が記事を投稿したこともあったんですよね。
――それは、会社のお仕事としてですか?
大島
いや、それは趣味です。趣味でしたが、書いたものが雑誌に掲載されて、それがきっかけになって副業としてパソコン誌のライターもやるようになったんです。周辺機器の資料レポートとかプログラムの入門記事とかを書いて、それを10年以上ずっと続けていました。
その内、世の中がデジタルカメラの時代に移った。父親の会社はそれに対応できなくて。結局、会社を清算しなくてはならないようになったんです。その頃から、僕はパソコンのライターとしてフリーでしばらく仕事をするようになったんです。
――まさに趣味が本業になったわけですね。
大島
でも、その後、今度は紙媒体のパソコン雑誌がどんどん廃刊されて、ウェブ上でのマガジンになっていったんです。そのタイミングで原稿料が紙媒体の頃の半分から三分の一に下がったんですよ。
――それでは稼げなくなってしまいますね!
大島
「これじゃぁ会社に勤めさせてもらうしかないな」と思って、いろんな求人をあたったり、ホームページでよさそうな会社に応募したりした中のひとつがテクノラボなんです。
――そういう経緯で、こちらの会社にいらしたんですね! ちょっと時系列でお伺したいんですけど、お父様のコンパクトカメラの会社にパソコンを導入したっていうのは……?
大島
80年代中旬だと思います。
――では、その頃にパソコンというものを勉強し始めて、コンパクトカメラからデジタルカメラに代わっていったのは2000年くらいですかね?
大島
そうですね。
――その頃、フリーで仕事を始められて。その後、テクノラボさんにたどり着いた、と。それはいつのことですか?
大島
2010年ぐらい、もう少し前ですかね。ちょっと話が戻るんですけど、父のコンパクトカメラの会社も小さい会社だったんで、僕はデザイン試作の他に、回路設計だとか、プリント基板の設計だとか、基板の試作、カメラに組み込む制御用プログラムの開発っていうのも仕事としてやっていました。
――すごいですね。多岐に渡りますね。
大島
その辺の知識が今、お客さんから電気的な依頼や情報がきても理解するために役立っています。係数の設計にもかなりそれが役立っていると思いますね。
――つながっていったって感じですね。もしもウェブ媒体が増えていって、稼ぎが二分の一、三分の一になってしまわなければ、ここに到達してなかったかもしれませんね。
大島
そうですね。なかったかもしれませんね。
――そういったいろんな経験があってテクノラボさんに入られる訳ですが、ここに入られてからは、ずっと設計という部分を任されていらっしゃる、と。
大島
まぁ、そうですね。ただ僕が入った段階では、テクノラボっていうのは、今みたいな仕事をしていたわけじゃなくて、素材の開発分野の仕事が結構多かったんですよね。ただ、素材の開発は時間もかかるし、それはそれで大変な分野なんですね。そうこうしている内に、だんだん設計の仕事が増えてきたんです。それで今のような会社になり、私も設計の仕事が本業になっていった感じです。
■「3月に、卒業式後に面接に来て、入社を決めました」
――田所さんの経歴はどんな感じですか?
田所
私は大学時代に美大でプロダクトデザインの勉強をしていました。それで、新卒でテクノラボに入社しました。
――こちらの会社に入社されて、どれくらいですか?
田所
今は4 年目で 、4月から5 年目になります。
――そうなんですね。美大に通っていた時から、この業界、この会社に入ろうと志望していたんですか?
田所
いや、そんなことはないんです。卒業してからです。3月に、卒業式後に面接に来て、入社を決めました。
――おお、まさに3月中に就活して、3月中に入社が決まったわけですね。すごい! 担当されている仕事は多岐に渡るというお話でしたが、それは入社した当初からそうだったんでしょうか?
田所
最初の数年はプロダクトデザインを担当していました。ただ、やはり仕事を増やす上で、営業窓口を増やすために会社の見せ方をどうするか、っていう話が出て。そこから「こういうデザインをしたら伝わりやすいんじゃないかな」と考えるようになって、ウェブデザインの勉強をしていった感じです。
――では、ウェブデザインの勉強は入社されてから始めた?
田所
そうですね。
■自分のやりたいことが見えなくなって、就活を辞めていた時期があった
――ちなみに、テクノラボっていう会社はどうやって知ったんですか?
田所
大学の求人票で見つけました。
――忙しく卒業して、就活して、入社が決まって、というわけですが、迷いはなかったですか?
田所
そうですね。うーん……。
実は私、大学の3、4年でちょっとつまずきまして。自分のやりたいことが見えなくなっちゃって、就職活動を一回辞めていた時があったんです。それでこう……、プロダクトデザイナーって対象を絞ったら、その業界から外れないっていうことが多いんですよね。家電なら家電で、車なら車で、ずっと続けていく。それからその時身につけた経験を武器に独立するっていうパターンが多いんです。私も大学から「分野を決めて、その希望の会社に入れなかったとしても同じ業界にいろ」ってことを常に言われていたので、そういう目で会社や業界を見ていたんですけど……。
テクノラボは、プラスチックという素材を武器にいろんなお客さんに対しての商品が作れるっていうことで、その時々に合わせたコンセプトを考えられたり、お客さんを見たりすることができる。これはすごく魅力的だなと思って。これは楽しそうだ、と思って応募しました。
――確かにそうですね。私も少ない経験で思いますけど、車なら車、家電なら家電っていうように、デザインできる商品、扱える商品が絞られてしまいがちですね。
田所
はい、なんかこう新しい商品作っていたとしても、コンセプトはすごい狭い幅でしか変わっていかないんですよね。
――3、4年生の時にちょっとつまずかれたというのは、どんなつまずきだったんでしょう?
田所
そうですね。うーん……。
――ごめんなさいね、意地悪な質問ですよね。もし、差し支えなければ。
田所
割と昔から、自分でいうのもあれなんですけど、比較的なんでもそこそこできて、そこそこ優等生でこれたんですけど、ずっと「二番手」っていう感じで。何をやっても二番手っていう、そんな感じできたんですね。「何が悪いんですか?」って聞いても、「悪くはないけど、一番の人に光るものがあった」とかってことを常に言われてきて……。
――しんどいですね、それね。私も、ちょっとわかる気がします。「飛び抜けた何かがないんだよ」って言われても、「それって何?」っていう葛藤って、自分の中でずっと抜け出せないですよね。
田所
「変える必要はないけどね」っていう、そんなことをずっと言われてきて、何だか製作していても、ちょっと嫌になってしまったんですよね。それで、「あー、何をやったらいいのかな」ってなってしまったんです。そしたら3、4年で研究室に通う中で、嫌なことややりたくないことが見えてきて。それでやっと自分のやりたいことが見えてきた……、私の場合は、そんな感じなんです。
■「子どもの頃から自分で何かを作るのが好きな子どもでした」
――大島さん、田所さんのお話を聞いて、いかがですか?
大島
僕の場合はずーっと自分の好きでやりたいことしかやってこなかったんですよね。だからものすごく幸せだなと思います。
――素晴らしいと思います。
大島
僕の父は昔から、土曜も日曜も休まず会社に出る人だったんです。それで中学生の頃から、土日は僕も会社について行って、仕事を手伝ったり、自分の好きな工作をやったりとかして……、その頃から修行をしていたわけですよね、結果的にいうと。大学を出た後、自然に父親の下で仕事をするようになりましたね。
――大学での専攻はどんな分野だったんですか?
大島
父は写真大学っていう中野にあった大学を出ていて、その大学が後に東京工芸大学に変わったんです。僕は、その東京工芸大学に通っていたんですよ。そこで、「カメラの設計をするわけだから、写真のことは学ばなければならないだろう」って考えて、そこに入ることになったんですね。
――中学高校と若い頃からお父さまと働いていて、大学で専門的に学んで、そのまま再び仕事でお父さまの会社で活躍なさった。好きなことと与えられる環境が一致していた、というわけですね。
大島
特に何も考えずに、「そういうもんだな」と思っていましたね。残念ながら、その会社は時代の流れにのれずに解散になってしまいましたけれどね。
――大島さんは、ずーっとものづくりが好きだったのですか。
大島
もうとにかく子どもの頃から自分で何かを作るのが好きな子どもでしたね。
――「工作」っていう言葉も出てきましたよね。
大島
いろんな部品を分解して研究するのが好きでしたね。こういうのが直接的につながっていますね。
――ちなみに、お仕事で使われるとおっしゃったCADって、いわゆる子どもの頃の工作とは全然違うものだと思うんですけれど。必要なスキルもパソコンの仕組みも時代とともにどんどん変わっていくわけですが、そういったことを学んでいくのは、ストレスとか負担とかになったりしないものなのでしょうか?
大島
僕はもともとライターをやっていた時代に、3D-CGソフトに自分の記事につける挿絵を自分で作るようになっていたんですよね。当時はCADソフトを使ったことがなかったんですけど。
このテクノラボに入ってからCADソフトを勉強し始めたんですけど、会社にCADソフトがあったんですよね。基本的なこの画面の上で物を作るっていうのは3D-CGのグラフィックソフトですでに身についていたんです。そのままスムーズに設計をできるようになりました。
――挿絵を描いていてよかったってことですね(笑)。
大島
そうですね。今はもう、ほとんどの時間がCADソフトで、画面上で設計しています。あとは、試作部品が送られてきたら、それを組み立てる。試作の部品というのは、そのままプラモデルのパーツのように組めることは少なくて、いろんな所を切ったり削ったり貼ったりする必要があるんです。それから塗装とかをして見られる形にしなくてはならないんですけど、そういう作業も仕事ではたくさんありますね。
■できないと思ったことも、解決策が「天から突然降って来る」瞬間がある
――一連のお仕事の中で一番心躍る瞬間ってどこですか?
大島
心躍るのは設計段階でいろいろ考えていて、最初はお客さんの要求するスペックをどうしても満たせない部分もあるんですけど、いろいろと考えていると壁を突破する瞬間があるんです。「こうすればうまく出来る」っていうのがわかるんですね。そういう瞬間はすごく楽しいし、嬉しいですね。
――それはどういう瞬間に訪れるんですか? CADソフトを前に仕事をしている時ですか? それとも全然違う時ですか?
大島
いろんなパターンがあるんですが、意外に多いのが、「お風呂に入っている時」とか「トイレに入っている時」です。ふとひらめくんです。
――頭の中で何かしら、ずーっと考えているんでしょうね。
大島
おそらくそうなんですね、自分で意識してなくても。こう言ってはなんですけど、「天から突然降って来る」。
――かっこいい! こうすればピタッと要件がクリアできるんじゃないか!っと。ぱーっと開ける感じが楽しそうですね。
■依頼したお客さんを飛び越えて、実際に使うエンドユーザーさんのことを考えるのが好き
――田所さんはいかがですか? 今は、いろいろな分野で活躍なさっていますけど、これが好きかなとか、熱中しちゃうなって思うのはどんな時ですか?
田所
私はプロダクトデザインで言うと、コンセプトを考えたり、社内の皆には言わないんですけど裏テーマを作っている時ですかね。ちょっと外れたところから要素を出してくことで、新しい製品らしさやテーマを自分で作り込んでいくんですけど、それで「あ、がっちりはまったかな」と思えると、「楽しい」って思いますね。
――皆で話したり皆で見ていたりするのは「表のコンセプト」。それに田所さんはひっそり違うテーマを差し込んでいく?
田所
そうですね(笑)。
――それはどういう感じなんでしょう?
田所
依頼してくださったお客さんを飛び越えて、実際に使うエンドユーザーさんのことを考えた時に、「あー、この要素があると、きっと素敵になるだろう」とか、「こういうテーマがあると使いやすいんじゃないかな」とかっていうのがあって、そこに向けて、デザインを進めていくんです。
――今まで作った中でその裏のコンセプトを誰かに伝えることはないですか?
田所
ないですね(笑)。
――そうですかー! 私、聞きたいけど聞いちゃうと皆にばれちゃうますもんね(笑)。それはエンドユーザーが多分こう感じるだろうなって妄想している時や、きっとこうなるだろうなと確信している時が嬉しい?
田所
そうですね。楽しいですね。
――自分で確証とか実際お客さんの声を聴くってことはできるんですか? 「あ、想いが届いた!」とか。
田所
直接その観点で言われることはないですけど、その商品にリピートや追加量産の依頼が入ったりすると、その場に合わせたものを提案できたんじゃないかなって思います。
――そうか、量産でリピートってことがあるわけですね。なるほどね。なんか私素敵だなーっと思って。
田所
そうですかね。
――ものを作るのって作業になりがちじゃないですか。私たちもこういうインタビューを作る時、記事を作ることがゴールになりがちですけど、「これを読んだ人の人生がちょっと豊かになったらいいな」とか、「こんな人がいるんだ、素敵だな、ってインタビューを受けた方の存在に気づく人がいたらいいな」と思っていて。想いがあるんですよね。
大島
まさに、そうですね。
田所
そうですね、はい。
――私たち製作者が、その一人ひとりを見ることはなかなかできないんですよね。どこかで誰かに届いて!って想いを託すしかないんです。今、田所さんがおっしゃったのって、なんかちょっと似ているのかな、って思ったんです。
田所
そうですね。そういう感覚です(笑)。
――皆に言わないでこっそりやるってところが、きっと田所さんらしいんだろうなと思って。
田所
裏のコンセプトはあくまでアイデア発想のきっかけです。もちろんお客さんが納得するようデザインのコンセプトは説明しますが、必要以上の情報を周りに伝えて混乱させてはその製品がもつ軸がぶれてしまいます。製品ごとに、サイズだったりデザイン性だったりコストだったりそれぞれ優先順位が違うのでわざわざ周りに不要な情報をぶつけて揺さぶる必要はないかな、と。
――自分の中でストーリーがちゃんと流れていて、「きっとこうなるだろう」というものがあれば満足、と。
田所
そうですね。
――それが大事なんですね。
■「できないだろう」と思いつつ、「大島さんなら何とかしてくれるだろう」と思って渡すことも
――一緒に働く中でのやりがいや、やりやすいといったところはいかがでしょうか? どれくらい一緒に頻度高く話したり、「じゃぁ、よろしく!」ってバトンを渡し合ったりするものですか?
大島
それは結構アバウトだよね。
田所
そうですね。案件ごと、ですかね。
大島
僕ももともとはデザイナーだったので、自分でやってもいいんですけど、正直、僕のデザインセンスはもう古くて。最近のデザインにはついていけないところがあるので、田所の方からあがってきたデザインが自分の予想を超えるいいものだと嬉しいですよね。
――田所さんは、何か心がけていることはあるんですか? 例えば、こういったデザインが今流行っているんじゃないかっていう情報収集を日頃している、とか、エンドユーザーって人を明確にターゲティングする、とか?
田所
ターゲットの幅が広いので、その都度しっかりリサーチができるわけではないですけど、もともと仮説を立てたり、シナリオ・メーキングをしたりすることが好きだったので、それの正誤はともかく一本筋を通すことが大事だなと思っています。それは意識しています。
――すごいですね。「仮説のシナリオ・メーキング」。勉強になります。逆に、お互いに働く中で、「いやー、デザイン的にいけてないよ」とか、「いや、設計的には無理だよ」とかって闘ってしまうことはありますか?
大島
設計的に「正直、これはいいデザインだけどできないよ」っていうのを描いてくることもあります。でも、そういう場合は別の案を考えてもらうなり、こっちで工夫するなりしますね。
――「これはできないだろう」というものを「あっできるかも」と思ったりでも、逆に言うと「このデザインじゃ難しいか」って違うデザイン出さなきゃならない、みたいなことは、頻繁に起こることなんですか?
大島
結構ありますね。
田所
ありますよね。「できないだろう」と思いつつ、時間がなかったり忙しかったりする時は、「大島さんなら考えてくれるだろう、何とかしてくれるだろう」と思って渡しちゃいますね(笑)。
――そうか! 信頼関係があるからその上で「よろしく」って時もあるんですよね。
■「木の温もりがあるものをプラスチックで作ってほしい」という要望が寄せられることも
――今までやった中で一番難しかった仕事というか案件というのはありますか? これはクライアントからの要望が難しい、とか?
大島
「防水」を仕様条件に出されると設計的にすごく難しいですね。水が浸み込まないようにするための設計ですね。
田所
デザイン面でも防水を考えると、ひとまわり「ごつく」なってしまうので、制約はあるかなと思います。
大島
後は、「薄くしてほしい」って話も多いんですけども、これも難しい。
――それは耐久性だったり壊れやすくなったりするんですか? そもそも素材がもたないってことですか?
大島
物理的にできない薄さを要求されることがあるんですよ。その場合、「ともかくコレコレこういう理由でこの薄さにはできません」って言って勘弁してもらうしかないんですね。ただね、それでも一所懸命考えると、最初思っていたよりさらにちょっと薄くすることができることもありますね。素材を工夫するとか、構造を工夫するという感じで。
――プラスチックって、どれくらい薄くもできるのかな? 今、ふと疑問を抱いたんですけど。
大島
薄くすることも出来ますが、薄くすると強度も減ります。一般の製品では薄くて1ミリですね。部分的には0.5ミリとかありえるんですけど。全体としては、1ミリ程度の厚さが最低必要ですね。
――プラスチックのプロダクトを作る時に、「これは無理だ」とか「これは難しいデザインだ」とかっていうものはありますか?
田所
私が今思い浮かんだのはプラスチックじゃない、もともと他の素材でできているデザインを、ちょっとよこしまな理由、例えば「安くしたい」「軽くしたい」とかっていう理由で、プラスチックで作りたいと依頼が来る時ですね。それはそれでニーズは分かるんですが、一方で持っている素材の良さをなくすことなんですよね。それぞれ別の良さでアプローチしなくちゃならないのを、「形だけプラスチックにしたい」、例えば、「木の温もりがあるものをプラスチックで作ってほしい」というのは、どうしてもプラスチックが負けてしまう。素材の良さはそれぞれ違うものなので、置き換えるのはちょっと違うんじゃないかな、と思いますね。
■社内にはプロダクトとか新製品とかに対してワクワクするメンバーが多い
――テクノラボという会社についてもお伺いしたいと思うのですが。テクノラボさんって、お二人から見てどんな会社ですか?
大島
皆で仲良く、ワイワイとやっていますよね。ここ、今の拠点に移ってくる前は本当に事務所が狭くて、あの時は結構大変でしたね。
――それはいつ頃ですか? 何年前くらいですか?
大島
三年位前ですかね。
――ではその頃は、田所さんも、もういらっしゃった。
田所
はい。
――その頃は事務所が狭くて人が多かった?
大島
人も少なかったし、事務所も狭かった。だんだん人が増えてきて、こっちに移って、「広くなったなー」と思ったらまた人が増えて、そろそろ次の事務所を考えなければいけないかな?って思います。
田所
私は、ここのオフィスの内見に来て、みんなに薦めた経緯があるので、気に入っています。なので、できればここにいたいですね。
――思い入れがあるってことですよね。前の事務所からここに来る時はもう人も増えていくし規模も大きくしようってとこで探したんですか?
田所
そうですね。
大島
いやー、当時はこんなに広いところはいらないと思ったくらいだったんですけど、今じゃね。
田所
荷物が増えてしまうとすぐ狭くなる。工具も増えてきましたしね。
――そうですね。人以外にも場所を取る所がいっぱい必要ですもんね。
田所
簡易金型も多く置いてあるんですけど、それもすぐ増えちゃうんですよね。
大島
社内で製品の仕上げや組み立てをすることが増えたので、その製品を置く場所も必要になってきて。なんだかんだで手狭になってきました。
――先程仲良くワイワイとおっしゃったんたですけど、どんなメンバーが多いですか?
田所
プロダクトとか新製品とかに対して、ワクワクするメンバーが多いのかな、と私は思っています。ものづくりにはデザインとか設計だけじゃなくて、営業の人でも新製品を見て、楽しくなる気持ちっていうのが大切なのかな、と思います。
――例えば製品ができた時って、皆さんでお披露目会みたいなことをするんですか?
大島
試作品とか最初の型が上がってくると、皆で集まってワイワイとやってますね。
田所
そうですね、嬉しい瞬間ですね。
大島
嬉しいのもあるし、何か不具合があるんじゃないかなって不安な面もありますね。
田所
そうですね(笑)。
――試作ってそういうものかもしれないですね、チェックしなければならないですもんね。このオフィスには、営業の方もいらっしゃればデザイナーや設計の方もいて、組み立てる場所もあって、この中で全てのメンバーが活動していらっしゃる。
大島
そうですね。
――お客さんからの声を聞いてきた営業が、そのまますぐ近くの設計の担当者に相談したりとか、「ちょっとデザイン考えてよ」っていう感じで日々動いているんですね。そこは確かに最初におっしゃったように、スピードの速さや小回りがきくっていうところで、御社の強みですね。
■ものづくりが好きな人、楽しくて手が動くような人に合っている会社
――社長ってどんな方ですか?
大島
頭のいい方ですね。
田所
口が上手いですね(笑)。
――(笑)。そう感じますか? 頭がいいな、機転が利くな、口が上手いなって。どんなところで?
田所
うーん。
大島
いやー、これは社外秘の部分だな(笑)。
――なるほど、なるほど、わかりました。これは、これ以上突っ込まずにします(笑)。皆さんに共通しているところとか、こういう人だったら活躍できるよとか、そういう「人」についてはどうでしょう?
大島
現状の全員に当てはまるかわからないですけど、やっぱりものづくりの思考がある人が適しているんじゃないかな。
田所
私もそう思います。作っていく中で、「こうしたらいいじゃん」が簡単に口に出たりだとか、できていくまでの長い過程が苦痛じゃない人だったり、楽しくて手が動くような人の方が合っていると思いますね。
――逆にこういう人は苦手かもとかこういう人は合わないんじゃないかなって人はいます? あんまりいないかしら?
大島
やっぱ暗い人とか?(笑)
田所
あははは(爆笑)。そうですね、あとは、全体でも人数が少ないので、「定型化した仕事をしたい」とか、「決まったことをしたい」という人には向かないな、と。その場その場で毎回違うことにぶつかっていくので、そういう刺激があるんですけど、それに耐えられる人がいいかな、と思いますね。
大島
そういえば、さっきの社長のことなんですけども、非常にアイデアを出す人で、僕が考えていなかったような解決方法、設計上の構造上の解決方法を、パッと言ってくることが、結構あるんですよ。社長は、そういう点で、すごいな、と思わせてくれる存在ですね。
――なるほど。そこが社長に対して「頭がいいな」っておっしゃった部分なんですね。ありがとうございます。
■休日も、街中でも、「こんなデザインを自分で作り出せたら幸せだろうな」というものを探している
――ここまでずっとお仕事、会社の話をしていたんですけど、最後にプライベートの話もお伺いしたいなと思うんですけど。仕事をされてない時は何をされていることが多いですか?
大島
奥さんの買い物に付き合っている事が多いですね。うちの奥さんは車の運転が出来ないので、まあ僕が車出してちょっと遠くのショッピングセンターに行くとか、いうパターンが多いですね、休みの日とかは。
――休日はお出かけしてドライブして。素敵ですね。田所さんは、いかがですか、何されてらっしゃいます?
田所
私も外に出ていることが多いですね。登山が好きなんですけど、やっぱり動いていることが気分転換になります。
――登山好きなんですね! 何かプライベートの中でこれ職業病だなとか、あ、また仕事のことつい考えちゃったみたいなことってあります?
大島
いいデザインは探しちゃいますよね。この間も買い物に付き合って、大型スーパーに行った時だったと思うんですけど。最近、自動で自分で操作するレジがあるじゃないですか。レジの機械のコインの投入口とか、その辺のユーザーインターフェースの部分のデザインを見ていて、「こんなデザインを自分で作り出せたら幸せだろうな」と思ういいものがあったんです。つい、そういうものを探したり、見入っちゃったりしますね。
――何かわかる気がします。田所さんはいかがですか?
田所
さっき大島が「お風呂でも考えている」と言っていたように、私も常に考え続けていますね。意識はしています。あとは、美大を志した時から「常に感動だけは忘れないようにしよう」と思っているんですね。なので、最近感動していないなと思ったら、感動しそうな場所に足を運ぶよう努力しています。
――「感動を忘れない」。素敵ですね。
■中学の先生の一言で、自分の夢には届かないと気づいた。それで進む道を変更した
――ちなみに、田所さんは、いつ頃から美大に進もうと思ったのですか?
田所
高校進学して、この先の進路どうしようかと考えた時に、最後の最後で「やっぱり美大かな」って思いました。高校で進路と向き合うまでは、将来はまったく別のことを仕事としていて、そういう製作とか創作とかは趣味でするんだろうなと考えていました。
――仕事でこの美大からプロダクトというものに進む、当時はあまり考えてなかったですか?
田所
大学に進学するまで考えてなかったです。
――もっと違う仕事というか、もしくは一般の営業だったり事務だったり、そういう仕事に就くのかもしれないってくらいに捉えていました?
田所
夢があったんですけど。それが私には厳しいだろうなって思ったんです。もともと幼稚園の頃から、絵画教室とかに通っていて、私もものづくりが好きだったので、こっちだったら一番になれるかと思ったからです。
――その夢は、皆さん、知っています? 会社の人とか。
田所
いや、知らないと思います(笑)。
大島
知らないね(笑)。
田所
中学3年の時に、当時の先生が軽く言ったことに対して、言い返せなかったんです。
あの……、私、中学の頃までは漠然と、「気象の研究をしたい」と思っていたんです。卒業のムービーを先生が撮ってくれた時に、簡単な質問で「10年後のたった今、何をやっていると思う?」と聞かれたことに対して、「私は、まだまだ勉強している最中です」って言ったら、「25歳なのに勉強って、変だよ」って笑われたんです。悔しくて、悔しくて。でも、「私は大学院に進むんです」と言い返せなかったんです。
――え、その先生、ひどい!
田所
いえ、先生の言葉のおかげで、私の学力では届かない、なんとなく自分でも諦めていることを認識できたんですよね。それに気づけたことに感謝して、素直に受け止めようって思えたんです。「勉強じゃ、かなわないな」と。そう気づくきっかけになったので、高校からは勉強をほどほどにして。
――人生って不思議ですよね。その学校の先生のその一言って、私からすると「何てこと言うの!? 何故、可能性をつぶすような発言をするの!?」って憤りを感じてしまいますけど、ご本人が「そうか」って違う道に進む背中を押すことにつながることもあるわけじゃないですか。捉え方って人それぞれだな、って今思って。人生って何て不思議なんだろうって思います。
田所
そうですね(笑)。
――「夢はあるけど自分じゃ難しいかな。じゃあ、好きなもの、小さい頃からやってきた美術かな」と進路を選んで。そこでまた迷って悩んで、卒業時にテクノラボさんに出会って。会社でいろいろな仕事を任されて自分の活躍のフィールドも、自分なりの密かな仕事の楽しみ方も見つけた。素敵ですね。
田所
ふふふ、そうですね。
■勇退して暇になったら、機械時計を自分で設計して作ってみたい
――お二方は、キャリアとか今後の仕事とかに対しては、どのように考えていらっしゃいますか? やりたい仕事、あるいは、こんなことをやってみたい、というのはありますか?
大島
今やっているのは単なる入れ物を作るだけなんですね。昔、父がやっていたようなカメラの設計は、外枠だけじゃなくて、その中にメカニズムが入っている。そういう動くメカニズムの設計をやりたいなぁ、って思っています。
――それは具体的に言うとどういうことなんですか? 中に例えば回路を入れたり、ということですか?
大島
回路は電気的なものなので。メカニズムとは違う、例えばギアーがあるとか、モーターがあるとか、何かが回転するとかっていうものですね。最近は、デジタルあるいはソフトウェアでそういうことが実現出来てしまうので具体的にはそういうプロダクトはほとんどないんですよね。しいていうと、機械時計。あれが完全なメカニズムですよね。もし自分が勇退して暇になったら、そういう機械時計を自分で設計して、部品を自分で作って、時計を作るっていうのもやってみたいです。
――小さい頃に工作が好きだったことから、大島さんは一貫して「ものづくり」がキーワードですね。
大島
そうですね、はい。
■プラスチックのことも、会社のことも、上手く伝える技術を磨いていきたい
――田所さんはいかがですか? 今後やってみたいこと、ありますか?
田所
私は、ちょっとプロダクトと離れちゃうんですけど。昨年、会社の人を増やすっていうことで採用用に会社の見せ方をちょっと考えていたんです。お客さんへの会社の見せ方と採用用の会社の見せ方ってちょっと違うなってことをすごく感じているんですね。
例えば、お客さんには「こういうフローでこういうことができますよ。信頼してください」って言うのに対して、採用って会社の中心がどうなっているのかとか、会社が目指しているところはどこかとか、そういう内部をしっかり上手く伝えることで人が集まってくる。伝える手段も、伝えていく中身も違うんだな、ってことをすごく学んだ一年だったんです。その両方に携われたからこそ、双方に活かせるなって強く感じて。
これからもう少し会社が大きくなるにつれて、会社の見せ方を一回見直そう、と思ったんです。お客さんであれば、ある程度はプラスチックを知っている人、採用だとプラスチックを知らない人、そういった人たちも含めて、プラスチックのことも会社のことも上手く伝えることが必要で。私ももう少し技術を向上できたらいいな、と。そんなことを、すごく感じています。
――確かに全然違いますよね。でも、田所さんは、本質を見抜いて、エンドユーザーや応募者が何を思うのかっていうのから逆算していくのが上手そう。田所さんのらしさが活躍なさるポイントですね。
田所
楽しいな、と思います。
■自由度の高い素材であることがプラスチックの魅力。プラスチックを味方にしている人は強い!
――これで最後の質問にしたいと思いますが、学生からすると「プラスチックのお仕事」って、すぐにイメージできる人って少ないんじゃないかな、と思うんですけど。
大島
私も少ないと思います。
――何かどういう見せ方にすると、この会社に共感性の高い学生が来るでしょう? どんなことを意識したら、「プラスチックのお仕事」って学生さんにもイメージしやすくなると思います?
大島
「身の周りの多くの物がプラスチックでできている」ってことを知ることかな。
田所
私は、やっぱり自由度の高い素材であることがプラスチックの魅力だなと思っているんです。安く見せることもプラスチックの良さだし、高く見せることもできるし。本当に幅広い表情が作れるので、そういう意味でプラスチックを味方にしている人は強い!と。それを知ってもらいたいですね。
――田所さん、何か学生に向けてのメッセージは、ありますか?
田所
私、採用活動っていろんな会社を覗けるすごいチャンスだなと思うんですよ。社長さんとも話せますよね。多分、就職してからもその会社から得た情報って絶対に活きてくるなとも思います。例えば、単純にいうと採用の仕方をどうしているかって、各社さんそれぞれに違うんです。今、会社の中にいると他の会社のことがわからないので、就活中にそれを知るのってすごい財産だなと思うんですね。いろんな会社行って、結果がうまくいかなくても、得られる情報はいっぱいあると思うので、そこを得てきてほしいなとすごく思います。
――そうですよね。贅沢な期間ですよね。好き勝手、いろいろな会社に出入りできるんですもんね。
大島
確かにそうだね。考えたことなかったけどね。まあ世の中にはいろんな人がたくさんいて、いろんな働き方があると思うんだけど……、ただ僕は個人的には、やっぱり大企業に就職して普通に暮らしていくよりも、尖った能力を持って、小っちゃい会社の中で、他の人にできない仕事をする、って生き方が自分には合っているし、そういう人を応援したいなと思いますね。
――そういう人がいたら、テクノラボに来ても大丈夫だよ、歓迎だよ、と。
大島
まあ多分、そういう人じゃないとテクノラボでは働けないと思いますね(笑)。